第1 甲の罪責
1 社員総会議事録の作成行為
(1) 甲は無断でA社社員総会議事録を作成しているため、有印私文書偽造罪(刑法(以下省略する)159条1項)及び同行使罪(161条1項)が成立しないか。
(2)まず、行使の目的が認められるか。
行使の目的とは、文書の証拠に対する公共の信頼の保護を目的とすることから、真正な文書として認識可能な状態にする目的のことをいう。
甲D間の取引は定款記載の代表権制限の手続きを確認する関係にあり、社員総会議事録を真正な文書D社に交付する目的を有しているため、行使の目的がある。
よって行使の目的が認められる。
(3)次に、A社社員総会議事録の内容を証明するものであるから、実社会生活に交渉を有する事項を証明する文書といえ、「事実証明に関する文書」にあたる。
(4)続いて、「偽造」といえるか。
「偽造」とは、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ることをいう。なぜなら、文書を作成名義人による意思・観念の表示の証拠として使用することができず、関係者の信用が害されることになるからである。
本件では、作成者が甲であり、名義人も甲であり人格の同一性を偽っていないため「偽造」にならないのではないとも思える。
甲D間の取引は、利益相反取引(会社法595条1項)にあたり、A社の定款によれば社員総会により利益相反取引の承認がなされ、社員の互選により選任された社員総会議事録作成者が社員総会議事録を作成する必要がある。そのため、別紙社員総会議事録の名義人は社員の互選により選任された社員総会議事録作成者である代表社員甲である。
それにもかかわらず、甲はA社社員に無断で社員総会議事録を作成し代表社員甲と署名とともに印をしているため、名義人である代表社員甲との人格の同一性を偽っているといえる。
よって、「偽造」にあたる。
(5)したがって、甲の社員総会議事録の作成には有印私文書偽造罪(159条1項)が成立する。
(6)そして、甲は偽造した社員総会議事録を真正な議事録としてDに対して交付しているから、偽造私文書行使罪(161条1項)が成立する。
2 甲のDに対する抵当権設定行為
(1)Aに対する業務上横領罪(253条)
ア 甲はA社に無断で、本件土地につき抵当権設定登記を行っているから、A社に対して業務上横領罪(253条)が成立しないか。
本件では、甲は,「A社の委託に基づき業務上本件土地を占有する者」であると同時に「A社の委託に基づきA社の財産上の事務を処理する者」に該当することになる。したがって,抵当権設定行為についての甲の罪責を検討する際には,まず,業務上横領罪を検討すべきか背任罪を検討すべきかが問題となる。
横領罪の保護法益を「物(個別財産)の所有権及び委託信任関係」,背任罪の保護法益を「全体財産及び委託信任関係」と捉え,両罪の保護法益に重なり合いを認め,法益侵害が一つであることから,両罪の関係は法条競合であり,重い横領罪から先に検討する。
イ まず、本件土地はA社所有であり、甲の所有であるから、「他人の財物」といえる。
ウ 次に、「自己の占有」といえるか。「自己の占有」には、事実的支配をされていない物でも不法な領得による所有権侵害が可能である横領罪の特性から、事実的支配のみならず、法律的支配も含まれる。
本件土地は甲が代表社員として管理しているため事実的支配もあるし、A社では不動産の管理・処分は代表社員が有しているため、本件土地を甲は法律的支配をしている。
よって、「自己の占有」であるといえる。
エ 続いて、「横領」といえるか検討する。
「横領」とは、不法領得の意思を発現する一切の行為のことをいい、不法領得の意思とは、委任の趣旨に反して所有者でなければできない処分をする意思のことをいう。
甲は自己の海外での賭博費用で生じた多額の借入金の返済に窮しておりDから一億円を借り受けて返済するためにDに本件土地を担保提供することを企て、A社に無断でDに対して抵当権設定契約をしている。抵当権設定契約は代表社員である甲でもA者の社員の同意がなければ適法にできない処分であり、甲がDと本件土地について抵当権設定をすることは土地の所有者でなければできない処分であるといえ、不法領得の意思が発現する行為であるといえる。
よって、「横領」であるといえる。
オ 最後に「業務」といえるか。
「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる委託信任関係を内容とする事務のことをいう。
本件土地の処分行為はA社社員という社会生活上の地位に基づき不動産の管理処分権限を有する甲により反復継続して行われる委託信任関係に基づくことを内容とする事務であるといえる。
よって、「業務」といえる。
カ したがって、甲にはA社に対する業務上横領罪(253条)が成立する。
(2)Dに対する詐欺罪(246条1項)
ア 甲は自己の借金返済のためDから現金を詐取したしようと企て、真実は承認手続を経ていないにもかかわらず、(方法として)偽造した社員総会議事録を交付(※このあとに、行使罪との関係で牽連犯を書く事になるからちゃんと指摘する)して承認手続きをあったかのように装い、有効に抵当権設定ができる旨、Dを誤信させ、貸付金名下に現金1億円を交付させて、もって財物をだましとったものである。
イ よって、甲にはDに対する詐欺罪(246条1項)が成立する。
3甲のEに対する本件土地売却行為
(1)A社に対する業務上横領罪
甲のEに対する本件土地売却行為はA社に対して業務上横領罪が成立しないか。まず、上述の通り、自己の占有する他人の財物、業務、「横領」は認められる。もっとも、甲はいつの時点で「横領」したか問題になる。
(以下は、契約時ではなく登記移転時にするときの書き方を書く。だから前述した内容からしたらずれてことを書いている)本件土地はEに売却してEへ所有権移転登記をしている。登記が第三者対抗要件となっているから、実害が生じるのは登記時であり、Eに対する所有権移転登記により不法領得の意思の発現があったとみると考える。
よって、甲はEに対する所有権移転登記の時点で「横領」したといえる。
甲は担保提供を行って業務上横領罪が成立後、再度同一物につき売却をおこなっている。これは横領罪は信頼を破る罪であり、もうすでにA社に対する信頼が破られているため、不可罰的事後行為になるように思える。しかし、横領罪の保護法益は委託信任関係だけでなく個別の所有権保護を図るため、所有権を移転することからすれば、個別の所有権の侵害がなされている。
別個の法益侵害がなされているため、不可罰的事後行為にならず横領後に横領罪が成立する。
したがって、甲にはA社に対して業務上横領罪が成立する。
(2)Dに対する背任罪
まず、本件土地は、A社所有であり、Dの所有ではないから自己の占有する他人の物といえず、甲にはDに対して横領罪が成立しない。もっとも、甲のEに対する本件土地売却行為はDに対して背任罪(247条)が成立しないか。背任罪の構成要件は、①他人のためにその事務を処理するものが②自己若しくは第三者の利益を図り又本人に損害を加える目的③任務に背く行為をし④財産上の損害である。
まず、①について検討する。
まず、甲はDに対して抵当権抹消登記の申し入れをするにあたって、土地を他に売却したりしない等と申し入れ、この申し入れに対してDはもし登記が必要になれば再び抵当権設定に協力をしてくれるだろうと考え甲の申し入れに応じて抵当権抹消登記をしていることから、甲D間に一定の信頼が生じており甲にはDに対して本件土地の担保価値を維持することを内容とする委託信任関係があるといえる。
よって、甲はDのために本件土地の担保価値を維持する事務を処理するものといえ、①を満たす。
次に、②について検討する。
甲には自己の借金返済のために9000万を手に入れる目的であり図利目的であるといえ②を満たす。
続いて、③について検討する。
「任務に背く行為をし」とは、誠実な事務処理者としてなすべきものと法的に期待されるところに反する行為をいう。
甲は誠実な事務処理者としてDとの委託信任関係に基づき本件土地の担保価値維持のため、本件土地を他に売却しないことが期待されている。それにかかわらず、期待に反して甲はEに対して本件土地を売却しているため「任務に背く行為をし」といえる。
よって、③を満たす。
最後に④について検討する。
「財産上の損害」は、経済的見地から本人の財産状態を評価して行う。
甲はEに本件土地につき所有権移転登記をしているため、Dは抵当権を対抗することができなくなってしまっている。そのため、抵当権の担保価値は下がり、Dの財産状態は減少しているといえ「財産上の損害」が認められる。
よって、④を満たす。
したがって、甲にはDに対して背任罪(247条)が成立する。
(3)Eに対する詐欺罪
甲はEに対して本件土地を処分する権限を有することを装い、Eに対して本件土地を売却しているから、Eに対して詐欺罪が成立しないか検討する。
まず、詐欺行為とは、財産の交付行為に向けられたものであることを必要とする。
甲は、Eに対して本件土地の売約代金として1億円を交付させるためにA社社員BCDに無断で本件土地を売却するために必要な書類を乙を介してEに渡して適法な処分権限をあるかのようなに装って詐欺行為をしている。
次に、錯誤が生じる必要がある。詐欺行為により惹起される錯誤は、錯誤と交付行為との間の条件関係を肯定するだけの錯誤でなければならず、重要な事実に関するものでなければならない。
甲に本件土地の処分権限があるかどうかは、甲E間の本件土地の売買の無効原因にもなりうることから、重要な事実であり、甲に適法な本件土地の処分権限がないにもかかわらず詐欺行為によりEに錯誤が惹起されている。
続いて、交付行為については詐欺罪が交付罪であり窃盗罪のとの区別のため、意思に基づく移転がなされる必要がある。
Eは乙を介して甲に1億円を受領させており意思による交付がある。
そして、明文はないが詐欺罪も財産犯である以上損害があることが必要であり、詐欺罪は個別財産に対する罪であるから、交付により移転した個別の物の喪失自体が損害である。
とすれば、社員総会の権限なしに利益相反取引をした場合に取引の安全の観点から、相手方の善意であれば取引は有効となる。EはA社との正規の取引である信じておりまたそのように信じたことにつき過失がないため甲D間の本件土地売買は有効であるため損害がないのではないか問題になるも、一億円の交付がある以上財産の喪失があり損害が認められる。
そして、以上の甲の行為は詐欺の故意により包摂され、甲は自己の借金返済のため行っているから不法領得の意思も認められる。
よって、甲にはEに対する詐欺罪が成立する。
第2乙の罪責
1 業務上横領罪の共同正犯
甲が本件土地をEに売却した行為について業務上横領罪が成立するが,乙に共謀共同正犯(60条)が成立しないか。
共謀共同正犯が成立するためには、①共謀②正犯意思③共謀者の実行行為が必要である。
まず、乙は甲に対し「会社に無断で抵当権を設定しているのであれば、無断で売却しても一緒だよ。」とEへの売却を説得し、甲はこれに同意して決意していると考えられるため、業務上横領罪についての共謀がある(①)。
次に、正犯意思について検討する
乙は仲介手数料という利益を得ることを企図して売却行為に関わっており、乙は現実に売却行為により1300万円の利益を得ているため、犯罪によって利益を享受する意思があるといえる。また、乙は売却行為の仲介というEから依頼を受けた乙でしかなしえない重要な行為を行っている。そして、乙はEから本件土地売却の依頼を受けた仲介人であり甲に働きかけるのは当然であり自由競争の範囲内であれば許容される。甲は,乙から本件土地の売却の申し入れを受けた当初,Dとの約束から売却する意思はなく断っているが、その後、抵当権設定も売却も一緒だと乙が甲を説得したことにより甲は業務上横領の犯意を生じさせており、甲の犯意は乙が積極的に働きかけ誘発したものであるから自由競争の範囲内を逸脱した働きかけを行っている。
よって、乙には正犯意思が認められる(②)。
続いて、甲は乙を介してEに本件土地を売却しているため、共謀者の実行行為が認められる(③)。
よって、業務上横領罪の共同正犯が認めれ、乙は非身分者であるから65条の共犯には共同正犯も含まれるため業務上横領罪の共同正犯にも65条適用がなされる。ここで、文言を素直に解釈して65条1項は真正身分犯に適用され、2項は不真正身分犯に適用される。業務上横領罪は業務が不真正身分犯で、占有が真正身分犯の複合的身分犯であるため、65条1項の適用により甲乙は業務上横領罪の共同正犯になるが、乙については65条2項により単純横領罪の科刑に処される。
2 背任罪の共同正犯
乙には、甲とのDに対する背任罪の共謀共同正犯が成立しないか。
乙は甲から本件土地につき他に売却したり他の抵当権を設定したりしないと約束していたことから、乙の申し入れを一度断っている経緯からして、乙は甲がDに対して担保価値維持義務をおっておりことを認識し乙は不正な取引を行い仲介手数料として甲から1000万円Eから300万円を手に入れる図利目的を有しており、甲に対して本件土地の売却を積極的に働きけているから正犯意思を有しつつ、甲と本件土地の売却という「任務に背く行為」をする意思連絡をしているため共謀があるといえる(①②)。そして、甲は乙を介してEに対して本件土地を売却し「任務に背く行為」をしている(③)。
よって、乙には、甲とのDに対する背任罪の共謀共同正犯が成立する。
3 詐欺罪の共同正犯
乙には甲とのEに対する詐欺罪の共謀共同正犯が成立しないか。A社の正規の取引を経ずにEに売却することを甲と共謀し(①)、乙は以前から本件土地の売買に関し、EからA社と話を付けてくれと頼まれており,A社との正規の取引であることがEにとって重要な事実であることを知っていた。それにもかかわらず、乙は積極的に甲に本件土地を無断で売却することを働きかけている。そして、自己の利益のために売却する意思があり,代金を得ているため正犯意思があるといえる(②)。甲が実行している(③) 。
したがって,詐欺罪の共謀共同正犯が成立する。
第3 罪数
以上により、甲には①抵当権設定したことにつき業務上横領罪、②有印私文書偽造罪、③同行使罪、④売却したことにつき業務上横領罪,⑤Dに対する詐欺罪の、甲乙には⑥A社に対する業務上横領罪の共謀共同正犯⑦Dに対する背任罪の共謀共同正犯⑧Eに対する詐欺罪共謀共同正犯が成立し、②と③とは通例目的と手段の関係にあるため牽連犯(54条1項後段)となり,さらに、③と⑤も通例目的手段の関係にあるから牽連犯となり②③⑤は科刑上一罪になり、①と⑥は同一の物に対する法益侵害であるから包括一罪にあり、⑤⑥⑦は観念的競合になり業務上横領罪により処断され、乙は単純横領罪の科刑によることになる。以上により、甲はA社に対する業務上横領罪、Dに対する詐欺罪、乙はA社に対する単純横領罪(詐欺罪?)の罪責を負う。
1 社員総会議事録の作成行為
(1) 甲は無断でA社社員総会議事録を作成しているため、有印私文書偽造罪(刑法(以下省略する)159条1項)及び同行使罪(161条1項)が成立しないか。
(2)まず、行使の目的が認められるか。
行使の目的とは、文書の証拠に対する公共の信頼の保護を目的とすることから、真正な文書として認識可能な状態にする目的のことをいう。
甲D間の取引は定款記載の代表権制限の手続きを確認する関係にあり、社員総会議事録を真正な文書D社に交付する目的を有しているため、行使の目的がある。
よって行使の目的が認められる。
(3)次に、A社社員総会議事録の内容を証明するものであるから、実社会生活に交渉を有する事項を証明する文書といえ、「事実証明に関する文書」にあたる。
(4)続いて、「偽造」といえるか。
「偽造」とは、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ることをいう。なぜなら、文書を作成名義人による意思・観念の表示の証拠として使用することができず、関係者の信用が害されることになるからである。
本件では、作成者が甲であり、名義人も甲であり人格の同一性を偽っていないため「偽造」にならないのではないとも思える。
甲D間の取引は、利益相反取引(会社法595条1項)にあたり、A社の定款によれば社員総会により利益相反取引の承認がなされ、社員の互選により選任された社員総会議事録作成者が社員総会議事録を作成する必要がある。そのため、別紙社員総会議事録の名義人は社員の互選により選任された社員総会議事録作成者である代表社員甲である。
それにもかかわらず、甲はA社社員に無断で社員総会議事録を作成し代表社員甲と署名とともに印をしているため、名義人である代表社員甲との人格の同一性を偽っているといえる。
よって、「偽造」にあたる。
(5)したがって、甲の社員総会議事録の作成には有印私文書偽造罪(159条1項)が成立する。
(6)そして、甲は偽造した社員総会議事録を真正な議事録としてDに対して交付しているから、偽造私文書行使罪(161条1項)が成立する。
2 甲のDに対する抵当権設定行為
(1)Aに対する業務上横領罪(253条)
ア 甲はA社に無断で、本件土地につき抵当権設定登記を行っているから、A社に対して業務上横領罪(253条)が成立しないか。
本件では、甲は,「A社の委託に基づき業務上本件土地を占有する者」であると同時に「A社の委託に基づきA社の財産上の事務を処理する者」に該当することになる。したがって,抵当権設定行為についての甲の罪責を検討する際には,まず,業務上横領罪を検討すべきか背任罪を検討すべきかが問題となる。
横領罪の保護法益を「物(個別財産)の所有権及び委託信任関係」,背任罪の保護法益を「全体財産及び委託信任関係」と捉え,両罪の保護法益に重なり合いを認め,法益侵害が一つであることから,両罪の関係は法条競合であり,重い横領罪から先に検討する。
イ まず、本件土地はA社所有であり、甲の所有であるから、「他人の財物」といえる。
ウ 次に、「自己の占有」といえるか。「自己の占有」には、事実的支配をされていない物でも不法な領得による所有権侵害が可能である横領罪の特性から、事実的支配のみならず、法律的支配も含まれる。
本件土地は甲が代表社員として管理しているため事実的支配もあるし、A社では不動産の管理・処分は代表社員が有しているため、本件土地を甲は法律的支配をしている。
よって、「自己の占有」であるといえる。
エ 続いて、「横領」といえるか検討する。
「横領」とは、不法領得の意思を発現する一切の行為のことをいい、不法領得の意思とは、委任の趣旨に反して所有者でなければできない処分をする意思のことをいう。
甲は自己の海外での賭博費用で生じた多額の借入金の返済に窮しておりDから一億円を借り受けて返済するためにDに本件土地を担保提供することを企て、A社に無断でDに対して抵当権設定契約をしている。抵当権設定契約は代表社員である甲でもA者の社員の同意がなければ適法にできない処分であり、甲がDと本件土地について抵当権設定をすることは土地の所有者でなければできない処分であるといえ、不法領得の意思が発現する行為であるといえる。
よって、「横領」であるといえる。
オ 最後に「業務」といえるか。
「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる委託信任関係を内容とする事務のことをいう。
本件土地の処分行為はA社社員という社会生活上の地位に基づき不動産の管理処分権限を有する甲により反復継続して行われる委託信任関係に基づくことを内容とする事務であるといえる。
よって、「業務」といえる。
カ したがって、甲にはA社に対する業務上横領罪(253条)が成立する。
(2)Dに対する詐欺罪(246条1項)
ア 甲は自己の借金返済のためDから現金を詐取したしようと企て、真実は承認手続を経ていないにもかかわらず、(方法として)偽造した社員総会議事録を交付(※このあとに、行使罪との関係で牽連犯を書く事になるからちゃんと指摘する)して承認手続きをあったかのように装い、有効に抵当権設定ができる旨、Dを誤信させ、貸付金名下に現金1億円を交付させて、もって財物をだましとったものである。
イ よって、甲にはDに対する詐欺罪(246条1項)が成立する。
3甲のEに対する本件土地売却行為
(1)A社に対する業務上横領罪
甲のEに対する本件土地売却行為はA社に対して業務上横領罪が成立しないか。まず、上述の通り、自己の占有する他人の財物、業務、「横領」は認められる。もっとも、甲はいつの時点で「横領」したか問題になる。
(以下は、契約時ではなく登記移転時にするときの書き方を書く。だから前述した内容からしたらずれてことを書いている)本件土地はEに売却してEへ所有権移転登記をしている。登記が第三者対抗要件となっているから、実害が生じるのは登記時であり、Eに対する所有権移転登記により不法領得の意思の発現があったとみると考える。
よって、甲はEに対する所有権移転登記の時点で「横領」したといえる。
甲は担保提供を行って業務上横領罪が成立後、再度同一物につき売却をおこなっている。これは横領罪は信頼を破る罪であり、もうすでにA社に対する信頼が破られているため、不可罰的事後行為になるように思える。しかし、横領罪の保護法益は委託信任関係だけでなく個別の所有権保護を図るため、所有権を移転することからすれば、個別の所有権の侵害がなされている。
別個の法益侵害がなされているため、不可罰的事後行為にならず横領後に横領罪が成立する。
したがって、甲にはA社に対して業務上横領罪が成立する。
(2)Dに対する背任罪
まず、本件土地は、A社所有であり、Dの所有ではないから自己の占有する他人の物といえず、甲にはDに対して横領罪が成立しない。もっとも、甲のEに対する本件土地売却行為はDに対して背任罪(247条)が成立しないか。背任罪の構成要件は、①他人のためにその事務を処理するものが②自己若しくは第三者の利益を図り又本人に損害を加える目的③任務に背く行為をし④財産上の損害である。
まず、①について検討する。
まず、甲はDに対して抵当権抹消登記の申し入れをするにあたって、土地を他に売却したりしない等と申し入れ、この申し入れに対してDはもし登記が必要になれば再び抵当権設定に協力をしてくれるだろうと考え甲の申し入れに応じて抵当権抹消登記をしていることから、甲D間に一定の信頼が生じており甲にはDに対して本件土地の担保価値を維持することを内容とする委託信任関係があるといえる。
よって、甲はDのために本件土地の担保価値を維持する事務を処理するものといえ、①を満たす。
次に、②について検討する。
甲には自己の借金返済のために9000万を手に入れる目的であり図利目的であるといえ②を満たす。
続いて、③について検討する。
「任務に背く行為をし」とは、誠実な事務処理者としてなすべきものと法的に期待されるところに反する行為をいう。
甲は誠実な事務処理者としてDとの委託信任関係に基づき本件土地の担保価値維持のため、本件土地を他に売却しないことが期待されている。それにかかわらず、期待に反して甲はEに対して本件土地を売却しているため「任務に背く行為をし」といえる。
よって、③を満たす。
最後に④について検討する。
「財産上の損害」は、経済的見地から本人の財産状態を評価して行う。
甲はEに本件土地につき所有権移転登記をしているため、Dは抵当権を対抗することができなくなってしまっている。そのため、抵当権の担保価値は下がり、Dの財産状態は減少しているといえ「財産上の損害」が認められる。
よって、④を満たす。
したがって、甲にはDに対して背任罪(247条)が成立する。
(3)Eに対する詐欺罪
甲はEに対して本件土地を処分する権限を有することを装い、Eに対して本件土地を売却しているから、Eに対して詐欺罪が成立しないか検討する。
まず、詐欺行為とは、財産の交付行為に向けられたものであることを必要とする。
甲は、Eに対して本件土地の売約代金として1億円を交付させるためにA社社員BCDに無断で本件土地を売却するために必要な書類を乙を介してEに渡して適法な処分権限をあるかのようなに装って詐欺行為をしている。
次に、錯誤が生じる必要がある。詐欺行為により惹起される錯誤は、錯誤と交付行為との間の条件関係を肯定するだけの錯誤でなければならず、重要な事実に関するものでなければならない。
甲に本件土地の処分権限があるかどうかは、甲E間の本件土地の売買の無効原因にもなりうることから、重要な事実であり、甲に適法な本件土地の処分権限がないにもかかわらず詐欺行為によりEに錯誤が惹起されている。
続いて、交付行為については詐欺罪が交付罪であり窃盗罪のとの区別のため、意思に基づく移転がなされる必要がある。
Eは乙を介して甲に1億円を受領させており意思による交付がある。
そして、明文はないが詐欺罪も財産犯である以上損害があることが必要であり、詐欺罪は個別財産に対する罪であるから、交付により移転した個別の物の喪失自体が損害である。
とすれば、社員総会の権限なしに利益相反取引をした場合に取引の安全の観点から、相手方の善意であれば取引は有効となる。EはA社との正規の取引である信じておりまたそのように信じたことにつき過失がないため甲D間の本件土地売買は有効であるため損害がないのではないか問題になるも、一億円の交付がある以上財産の喪失があり損害が認められる。
そして、以上の甲の行為は詐欺の故意により包摂され、甲は自己の借金返済のため行っているから不法領得の意思も認められる。
よって、甲にはEに対する詐欺罪が成立する。
第2乙の罪責
1 業務上横領罪の共同正犯
甲が本件土地をEに売却した行為について業務上横領罪が成立するが,乙に共謀共同正犯(60条)が成立しないか。
共謀共同正犯が成立するためには、①共謀②正犯意思③共謀者の実行行為が必要である。
まず、乙は甲に対し「会社に無断で抵当権を設定しているのであれば、無断で売却しても一緒だよ。」とEへの売却を説得し、甲はこれに同意して決意していると考えられるため、業務上横領罪についての共謀がある(①)。
次に、正犯意思について検討する
乙は仲介手数料という利益を得ることを企図して売却行為に関わっており、乙は現実に売却行為により1300万円の利益を得ているため、犯罪によって利益を享受する意思があるといえる。また、乙は売却行為の仲介というEから依頼を受けた乙でしかなしえない重要な行為を行っている。そして、乙はEから本件土地売却の依頼を受けた仲介人であり甲に働きかけるのは当然であり自由競争の範囲内であれば許容される。甲は,乙から本件土地の売却の申し入れを受けた当初,Dとの約束から売却する意思はなく断っているが、その後、抵当権設定も売却も一緒だと乙が甲を説得したことにより甲は業務上横領の犯意を生じさせており、甲の犯意は乙が積極的に働きかけ誘発したものであるから自由競争の範囲内を逸脱した働きかけを行っている。
よって、乙には正犯意思が認められる(②)。
続いて、甲は乙を介してEに本件土地を売却しているため、共謀者の実行行為が認められる(③)。
よって、業務上横領罪の共同正犯が認めれ、乙は非身分者であるから65条の共犯には共同正犯も含まれるため業務上横領罪の共同正犯にも65条適用がなされる。ここで、文言を素直に解釈して65条1項は真正身分犯に適用され、2項は不真正身分犯に適用される。業務上横領罪は業務が不真正身分犯で、占有が真正身分犯の複合的身分犯であるため、65条1項の適用により甲乙は業務上横領罪の共同正犯になるが、乙については65条2項により単純横領罪の科刑に処される。
2 背任罪の共同正犯
乙には、甲とのDに対する背任罪の共謀共同正犯が成立しないか。
乙は甲から本件土地につき他に売却したり他の抵当権を設定したりしないと約束していたことから、乙の申し入れを一度断っている経緯からして、乙は甲がDに対して担保価値維持義務をおっておりことを認識し乙は不正な取引を行い仲介手数料として甲から1000万円Eから300万円を手に入れる図利目的を有しており、甲に対して本件土地の売却を積極的に働きけているから正犯意思を有しつつ、甲と本件土地の売却という「任務に背く行為」をする意思連絡をしているため共謀があるといえる(①②)。そして、甲は乙を介してEに対して本件土地を売却し「任務に背く行為」をしている(③)。
よって、乙には、甲とのDに対する背任罪の共謀共同正犯が成立する。
3 詐欺罪の共同正犯
乙には甲とのEに対する詐欺罪の共謀共同正犯が成立しないか。A社の正規の取引を経ずにEに売却することを甲と共謀し(①)、乙は以前から本件土地の売買に関し、EからA社と話を付けてくれと頼まれており,A社との正規の取引であることがEにとって重要な事実であることを知っていた。それにもかかわらず、乙は積極的に甲に本件土地を無断で売却することを働きかけている。そして、自己の利益のために売却する意思があり,代金を得ているため正犯意思があるといえる(②)。甲が実行している(③) 。
したがって,詐欺罪の共謀共同正犯が成立する。
第3 罪数
以上により、甲には①抵当権設定したことにつき業務上横領罪、②有印私文書偽造罪、③同行使罪、④売却したことにつき業務上横領罪,⑤Dに対する詐欺罪の、甲乙には⑥A社に対する業務上横領罪の共謀共同正犯⑦Dに対する背任罪の共謀共同正犯⑧Eに対する詐欺罪共謀共同正犯が成立し、②と③とは通例目的と手段の関係にあるため牽連犯(54条1項後段)となり,さらに、③と⑤も通例目的手段の関係にあるから牽連犯となり②③⑤は科刑上一罪になり、①と⑥は同一の物に対する法益侵害であるから包括一罪にあり、⑤⑥⑦は観念的競合になり業務上横領罪により処断され、乙は単純横領罪の科刑によることになる。以上により、甲はA社に対する業務上横領罪、Dに対する詐欺罪、乙はA社に対する単純横領罪(詐欺罪?)の罪責を負う。
第1甲の罪責
1 住居侵入罪(刑法(以下、省略する)130条前段)の成否
甲は窃盗の目的で「正当な理由なく」(※1)、「住居」であるAの自宅に無施錠のトイレの窓からAの意思によらないで「侵入」している。
よって、甲には、住居侵入罪(130条前段)が成立する。
2 窃盗罪(235条)の成否
甲は、「他人の財物」であるAの現金300万円をジャンパーのポケットに入れて、ABの専有の意思によらないで、占有移転をし「窃取」している。
よって、甲は現金300万円の窃盗罪(235条)が成立する。
3 強盗罪致死(240条後段、236条1項)の成否
(1) 甲はBに対して現金2万円を奪っている。その後、Bは傷害を負い、死亡している。そのため、甲にBに対する現金2万円の強盗致死罪(240条後段)が成立しないか。強盗致死罪が成立するには、強盗が、人を死亡させることが必要である。
(2)まず、「強盗」とは強盗の実行の着手をした者をいう。以下、強盗罪(236条)の検討をする。
まず、「暴行・脅迫」が認めれるか検討する。
「暴行・脅迫」とは、財物奪取に向けられたものであり、相手方の反抗を抑圧する程度のものでなければならない。
甲は、机の引き出しにあった現金300万円を窃取した後、さらに別の金品を求めている。財物奪取を目的としている上で、甲はBに対して、胸ぐらをつかみカッターナイフを左頬につきつけている。これは、頸部という切りつけられれば致命傷に係わる部分に近い場所であり生命に重大な危険が差し迫っている。Bは70歳で高齢であり、甲は30歳と年の差が著しくことなり、一般的に考えれば身体能力の差は甲の方が優位に立っている。人通りの少ない住宅街で少なくとも10時半までは人が来ないためBは助けを求めることができない状況にある。そして、「静かにしろ、ころすぞ」と害悪の告知をしている。
このことからすれば、Bは反抗を抑圧されてる至っているといえ、「暴行・脅迫」は認められる。
次に、「他人の財物」である現金2万円を、Bはやむを得ず甲に渡しているため「強取」しているといえる。
続いて、Bは勝手に転んで、手首に傷害を負っているから、「人を負傷させた」といえるか。
強盗の機会になされたものか問題になる。「人の負傷させた」といえるには、240条が刑事学上強盗の機会に死傷結果が生じることが多いため設けられた政策的規定であるから、強盗の機会に行われる必要がある。
甲がリビングボードの方に行き物色を始めた時に隙をついて、Bは逃げ出している。Bは、甲が追ってきたので、玄関の外まで逃げてそこで転んでいる。そのため、強盗の際に密接に関連する行為でBは手首に傷害を負っている。
よって、強盗の機会にBは手首に傷害をおっているとして「人を負傷させた」といえる。
そして、Bはブロック塀の角に後頭部を強打して際に脳内出血を起こしたことを原因として死亡しており、Bは手首に傷害を負ったことから、死亡したわけではないから、「死亡」したとはいえない。
最後に、強盗の故意(236条、38条1項)があり、甲は生活費につかうので不法領得の意思も認められる。
したがって、甲にはBに対する現金2万円の強盗致傷罪(240条前段)が成立する。
第2 乙の罪責
1 住居侵入罪(130条前段)及び窃盗罪(235条)の共謀共同正犯(60条)の成否
乙には甲と住居侵入罪(130条前段)及び窃盗罪(235条)の共謀共同正犯(60条)が成立しないか。乙は実行行為を分担していないため、共謀共同正犯と幇助犯との区別が問題になる。
共謀共同正犯とは、2以上の者が、特定の犯罪を行うために、共同意思の下に一体となって互いに他人の行動を利用して各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行にしたことが認めなければならない。
そして、幇助犯との区別とは、正犯意思によって判断し具体的には①役割の重大性②利益の享受で判断する。
乙には、Aの会社に勤務していた時の待遇に不満を持っており、生活費にも困窮している異常体である。300万円の内100万円を乙は甲からもらえるため、Aから金を盗めば金に困らないから、利益を享受する意思が強く認められる(※2)。
乙は、甲に住所を教えており、Aの自宅の間取図、人の出入りについて説明しており、乙はAの自宅に甲とともに下見をして情報提供をしている。甲はそもそもAの住所すらしらないことからすれば、およそ、乙の情報提供しかなければ窃盗を達成できないため乙は重大な役割している。
よって、乙には自己の犯罪として住居侵入罪及び窃盗罪を行う意思があり正犯意思がある。
次に、乙は甲から、「俺が入るから、・・・300万円を手に入れることができたら、お前に100万円をやる」といわれ、乙は、「分かった・・・」といっている。そのため、Aの自宅の住居侵入罪と現金300万円の窃盗罪を行う合意がある。そして、乙は甲に「ほかの場所にも金目の物があるはずだ」と説明している。そのため、甲と乙には現金300万円以外にも金品を奪う意思疎通があるといえる。
よって、甲と乙には、Aの自宅の住居侵入罪と現金300万円とそれ以外の金品に対する窃盗罪を共同意思の下実行に移すことを内容とする謀議をしている。
続いて、甲はAの自宅に侵入(130条前段)し、現金300万円を窃取(235条)している。また、それ以外の金品として現金2万円を強取(236条)している。
乙には、住居侵入罪及び、窃盗罪の故意しかないため現金302万円の限度で窃盗罪の共謀共同正犯が成立する(130条前段、235条、60条)。
2 強盗致死罪(240条後段)の成否
乙はBに対して暴行を行いBはブロック塀の角に後頭部を強打して傷害をおって死亡している。そのため、乙にはBに対する強盗致死罪が成立しないか。
まず、「強盗」とが強盗の実行の着手をした者をいう。事後強盗が成立するか検討する。
前述のとおり、甲と乙には現金302万円共謀共同正犯が成立するため、乙は「窃盗」といえる。
近所の人がBの声を聞きつけて警察に通報すると考え、Bを黙らせるために乙はBの口を塞いだ上、顔面を力いっぱい殴打し背部腹部を数回蹴っている。そのため、乙に「逮捕を免れる」ためBの反抗を抑圧する程度の「暴行・脅迫」をあたえている。
よって、乙には事後強盗罪(238条)が成立し「強盗」であることは認められる。
そして、Bの死亡して原因は、乙が逮捕を免れるための暴行脅迫としてBを殴打してBが衝撃で倒れてブロック塀の角に後頭部を強打し脳内出血をしていることにある。そのため、強盗である乙がBを死亡させたといえる。
よって、乙にはBに対する強盗致死罪(240条後段)が成立する。
第3 罪数
甲乙には①住居侵入罪及び、②現金302万円の窃盗罪の共謀共同正犯(130条前段、235条、60条)が成立する。単独で③甲には現金2万円の強盗致傷罪(240条前段)と④乙には強盗致死罪(240条後段)が成立する。そして、①と②③④は目的と手段の関係にあるから、牽連犯になる。②は③とAの自宅にある金品であり同一客体であるといえ、Aの自宅であるから同一機会の犯行といえ、②は③に吸収される関係にある。
※1「正当な理由なく」は、侵害態様もしくは目的又はその両方の指摘で足りる
※2《shor》ver 財産権の本質に照らせば、利益100万円を得ていることは自己の犯罪として実行する意思がある
H20は法益侵害行為が多いため、表を作って検討すると見落としが少なくなる。
1 住居侵入罪(刑法(以下、省略する)130条前段)の成否
甲は窃盗の目的で「正当な理由なく」(※1)、「住居」であるAの自宅に無施錠のトイレの窓からAの意思によらないで「侵入」している。
よって、甲には、住居侵入罪(130条前段)が成立する。
2 窃盗罪(235条)の成否
甲は、「他人の財物」であるAの現金300万円をジャンパーのポケットに入れて、ABの専有の意思によらないで、占有移転をし「窃取」している。
よって、甲は現金300万円の窃盗罪(235条)が成立する。
3 強盗罪致死(240条後段、236条1項)の成否
(1) 甲はBに対して現金2万円を奪っている。その後、Bは傷害を負い、死亡している。そのため、甲にBに対する現金2万円の強盗致死罪(240条後段)が成立しないか。強盗致死罪が成立するには、強盗が、人を死亡させることが必要である。
(2)まず、「強盗」とは強盗の実行の着手をした者をいう。以下、強盗罪(236条)の検討をする。
まず、「暴行・脅迫」が認めれるか検討する。
「暴行・脅迫」とは、財物奪取に向けられたものであり、相手方の反抗を抑圧する程度のものでなければならない。
甲は、机の引き出しにあった現金300万円を窃取した後、さらに別の金品を求めている。財物奪取を目的としている上で、甲はBに対して、胸ぐらをつかみカッターナイフを左頬につきつけている。これは、頸部という切りつけられれば致命傷に係わる部分に近い場所であり生命に重大な危険が差し迫っている。Bは70歳で高齢であり、甲は30歳と年の差が著しくことなり、一般的に考えれば身体能力の差は甲の方が優位に立っている。人通りの少ない住宅街で少なくとも10時半までは人が来ないためBは助けを求めることができない状況にある。そして、「静かにしろ、ころすぞ」と害悪の告知をしている。
このことからすれば、Bは反抗を抑圧されてる至っているといえ、「暴行・脅迫」は認められる。
次に、「他人の財物」である現金2万円を、Bはやむを得ず甲に渡しているため「強取」しているといえる。
続いて、Bは勝手に転んで、手首に傷害を負っているから、「人を負傷させた」といえるか。
強盗の機会になされたものか問題になる。「人の負傷させた」といえるには、240条が刑事学上強盗の機会に死傷結果が生じることが多いため設けられた政策的規定であるから、強盗の機会に行われる必要がある。
甲がリビングボードの方に行き物色を始めた時に隙をついて、Bは逃げ出している。Bは、甲が追ってきたので、玄関の外まで逃げてそこで転んでいる。そのため、強盗の際に密接に関連する行為でBは手首に傷害を負っている。
よって、強盗の機会にBは手首に傷害をおっているとして「人を負傷させた」といえる。
そして、Bはブロック塀の角に後頭部を強打して際に脳内出血を起こしたことを原因として死亡しており、Bは手首に傷害を負ったことから、死亡したわけではないから、「死亡」したとはいえない。
最後に、強盗の故意(236条、38条1項)があり、甲は生活費につかうので不法領得の意思も認められる。
したがって、甲にはBに対する現金2万円の強盗致傷罪(240条前段)が成立する。
第2 乙の罪責
1 住居侵入罪(130条前段)及び窃盗罪(235条)の共謀共同正犯(60条)の成否
乙には甲と住居侵入罪(130条前段)及び窃盗罪(235条)の共謀共同正犯(60条)が成立しないか。乙は実行行為を分担していないため、共謀共同正犯と幇助犯との区別が問題になる。
共謀共同正犯とは、2以上の者が、特定の犯罪を行うために、共同意思の下に一体となって互いに他人の行動を利用して各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行にしたことが認めなければならない。
そして、幇助犯との区別とは、正犯意思によって判断し具体的には①役割の重大性②利益の享受で判断する。
乙には、Aの会社に勤務していた時の待遇に不満を持っており、生活費にも困窮している異常体である。300万円の内100万円を乙は甲からもらえるため、Aから金を盗めば金に困らないから、利益を享受する意思が強く認められる(※2)。
乙は、甲に住所を教えており、Aの自宅の間取図、人の出入りについて説明しており、乙はAの自宅に甲とともに下見をして情報提供をしている。甲はそもそもAの住所すらしらないことからすれば、およそ、乙の情報提供しかなければ窃盗を達成できないため乙は重大な役割している。
よって、乙には自己の犯罪として住居侵入罪及び窃盗罪を行う意思があり正犯意思がある。
次に、乙は甲から、「俺が入るから、・・・300万円を手に入れることができたら、お前に100万円をやる」といわれ、乙は、「分かった・・・」といっている。そのため、Aの自宅の住居侵入罪と現金300万円の窃盗罪を行う合意がある。そして、乙は甲に「ほかの場所にも金目の物があるはずだ」と説明している。そのため、甲と乙には現金300万円以外にも金品を奪う意思疎通があるといえる。
よって、甲と乙には、Aの自宅の住居侵入罪と現金300万円とそれ以外の金品に対する窃盗罪を共同意思の下実行に移すことを内容とする謀議をしている。
続いて、甲はAの自宅に侵入(130条前段)し、現金300万円を窃取(235条)している。また、それ以外の金品として現金2万円を強取(236条)している。
乙には、住居侵入罪及び、窃盗罪の故意しかないため現金302万円の限度で窃盗罪の共謀共同正犯が成立する(130条前段、235条、60条)。
2 強盗致死罪(240条後段)の成否
乙はBに対して暴行を行いBはブロック塀の角に後頭部を強打して傷害をおって死亡している。そのため、乙にはBに対する強盗致死罪が成立しないか。
まず、「強盗」とが強盗の実行の着手をした者をいう。事後強盗が成立するか検討する。
前述のとおり、甲と乙には現金302万円共謀共同正犯が成立するため、乙は「窃盗」といえる。
近所の人がBの声を聞きつけて警察に通報すると考え、Bを黙らせるために乙はBの口を塞いだ上、顔面を力いっぱい殴打し背部腹部を数回蹴っている。そのため、乙に「逮捕を免れる」ためBの反抗を抑圧する程度の「暴行・脅迫」をあたえている。
よって、乙には事後強盗罪(238条)が成立し「強盗」であることは認められる。
そして、Bの死亡して原因は、乙が逮捕を免れるための暴行脅迫としてBを殴打してBが衝撃で倒れてブロック塀の角に後頭部を強打し脳内出血をしていることにある。そのため、強盗である乙がBを死亡させたといえる。
よって、乙にはBに対する強盗致死罪(240条後段)が成立する。
第3 罪数
甲乙には①住居侵入罪及び、②現金302万円の窃盗罪の共謀共同正犯(130条前段、235条、60条)が成立する。単独で③甲には現金2万円の強盗致傷罪(240条前段)と④乙には強盗致死罪(240条後段)が成立する。そして、①と②③④は目的と手段の関係にあるから、牽連犯になる。②は③とAの自宅にある金品であり同一客体であるといえ、Aの自宅であるから同一機会の犯行といえ、②は③に吸収される関係にある。
※1「正当な理由なく」は、侵害態様もしくは目的又はその両方の指摘で足りる
※2《shor》ver 財産権の本質に照らせば、利益100万円を得ていることは自己の犯罪として実行する意思がある
H20は法益侵害行為が多いため、表を作って検討すると見落としが少なくなる。