1 管轄
財産上の訴えの管轄は義務履行地である(5条)。そして、XとYの金銭消費貸借債務とZの保証債務は持参債務である(商法516条1項)から、義務履行地はYの場合は東京本店でZの場合は福岡支店となる。そのため、XのYに対する請求の管轄は東京地裁でZに対しては福岡地裁になる。もっとも、東京地裁の管轄で併合審理することも可能でありその場合は、併合請求における管轄の場合は共同訴訟の要件である38条前段の要件を満たす必要がある(7条但書)。本件では、XとYの金銭消費貸借契約とZとの連帯保証契約は同一の事実上の原因に基づいて締結されているから「同一の事実上及び法律上の原因に基づき」(38条前段)を満たす。
 以上により、裁判所は、XのYとZに対する請求を東京地裁の管轄で審理する取り扱いが可能である。
2 訴状の送達
 裁判所書記官が訴状を付郵便送達(107条1項)しているがこの送達の効力は有効か再度裁判所として送達をする必要があるか問題となる。
 送達は裁判所書記官の固有事務でありいなかる送達をするかは一定の裁量が認められ、裁量逸脱濫用であれば送達は違法である。Xの担当者にYの就業場所の有無を照会し、その回答に基づき、就業場所が不明であると認定したうえで、訴状をYの住所地に宛てて書留郵便に付して送達している。確かにYは札幌方面の工事現場で稼働中である。もっとも、具体的にどこの場所に就業場所にいるかは特定に至らず、裁判所書記官は、Xの担当者にYの就業場所を照会した上で就業場所不明としているのである。よって、裁判所書記官に裁量逸脱濫用は認められない。よって、Yに対する送達は有効であり裁判所は再度Yに対して送達することは必要としない。
3 移送
Zの申立てにより福岡地裁に移送することが可能か問題となる。管轄の移送(17条)の趣旨は証拠の散逸を防ぎ審理を効率化しもって当事者の公平を図ることあり、当事者間の公平を図る必要があるとき第一審裁判所は移送することができる(17条)。
本件では、Zは福岡在住であり東京地裁で裁判をすることは福岡と東京では場所的に遠くZに時間的・経済的負担をかけることになる。また、Zの答弁書による主張はXの担当者による強迫(民法96条1項)が認められ保証契約を取消すとしZが福岡支店で保証契約を締結したとすれば証拠等は福岡支店に所在すると考えられる。さらに、X株式会社は福岡支店があるのであるから特に場所的に不都合はない。とすれば、当事者の公平を図るためには管轄を東京地裁とするより福岡地裁にすることが当事者の公平を図る観点からすればZに対する不公平を是正することなる。
よって、当事者間の公平を図る必要があるといえ東京地裁から福岡地裁に移送することが認められ移送(17条)をすべきである。